癌の妻との日々

かなり古い小説に『春は馬車に乗って』というのがある。肺の病、結核で余命わずかな妻と、妻の介護をしながら文章を書く私との、静かな二人の生活と、やがて来る永遠の別れの準備を淡々と書いた作品だ。大して面白くもない私小説だったが、最近は妙に切実に思い出させられ、読んだ。

当時の肺の病、結核は罹患するとほぼ死亡したらしい。作者の横光利一は、やっと共に暮らせる様になった妻(死亡後に結婚届を出した)が結核に冒され、逗子で療養をして別れの時を静かに待つという物語だ。今では結核で亡くなるという事はほとんど無くなった。癌は不治の病と言われているが、いつかはこの小説の肺の病、結核の様に、簡単に治る世の中になるのだろう。

小説の中では、妻は夫に対してかなり言いたい事を言ってる。死を待つ身でも、ある意味明るく過ごし、その中に何とも言えない愛情を感じる。あなたの為に生きて尽くしたい、と言うようなことがあったが、それを作者は茶化すのだが、同じ様な事を我妻も言ってる。ついつい作者と同じ様に、そういう妻に意地悪を言いたくなる。

作中では妻は言い返すのだが、カアさんは唯々「ごめんなさい」と涙ながらに謝るだけだ。

20年以上もの義母に対しての恨みを込めて、おまえは実家中心で自分や子供は二の次だ、などと嫌味を言う。いつもなら何倍にもなって言い返し、大喧嘩になるのだが、いまは私が悪かったと泣くばかりだ。もう責めないでと言うが、責めるのではなく、義母を同じ様に悪く言えばこちらの気が済むのに、いつも自分が悪いと泣くばかりだ。

今はもう責める気にも成らない。様々な事があったが、あるいはもう時機に長い別れが来る様な気がする。本当に様々な事があった。義母さえ居なければ、さぞ仲の良い、いつも一緒にいる夫婦だったかもしれない。が、義母という存在があったからこそ、自分の目は妻に向いていたのかもしれない。

残り時間は分からないが、例えわずかな時間でも、この縁を得た妻との残りの時間を、静かに過ごしたいと思う。副作用と共に、最近では食欲自体が無くなり、歩行にフラつきも出てきた。二人の中には余り思いでらしきものもないが、ただ共にある時間だけでも静かに過ごしたい。そう思う。



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